【調査報道】秋元議員逮捕で揺れる業界の対政界戦略/中台正明

●中台レポート④
年の瀬も押し迫った昨年12月25日、あるニュースで業界内がざわめいた。業界とのかかわりが深い自民党の秋元司衆議院議員(東京都第15区)を東京地検特捜部が収賄容疑で逮捕したのだ。秋元議員は2017~18年の内閣府副大臣(IR担当)当時、日本でのIR参入を狙う中国の企業から、その便宜を図ることを目的とした370万円相当の賄賂を受け取っていたという。同議員は同日、離党した。

さらに波紋が広がったのは翌26日。都内中央区にある大手ホール企業の本社が同地検特捜部の家宅捜索を受けたからだ。同社は、秋元議員の元秘書が社長を務め、同議員も顧問を一時していた芸能関連会社にコンサルタント料を支払っていたとのこと。同議員周辺の資金の流れを調べるためだと報じられている。

秋元議員は自民党の国会議員有志で組織する「時代に適した風営法を求める議員連盟」(以下、風営法議連)の事務局長で、業界の政界ロビー活動におけるキーマンの一人。今回の事件は今後の業界にどのような影響を及ぼすのか。問題点を整理する。

●自民党とのコミュニケーションへの影響は軽微!?
今回の事件が業界に及ぼす影響で気になるのは「自民党との関係」「世間の目」「今後の対政界戦略」の3点。

まず一つ目は、今後の自民党とのコミュニケーションに支障が出ないかだ。業界は12年ほど前から政界との間に太いパイプを築こうとしているが(201948日付の調査報道「パチンコ業界、対政界戦略で大きな決断」参照)、その戦略上、秋元議員は重要な役割を果たしてきたからである。

そこで秋元議員の経歴をみると、議員になる前は自民党国会議員有志による遊技業振興議員連盟の会長を務める小林興起衆議院議員(当時)の秘書だった。その影響からか、04年の参議院選挙で初当選すると、ホール関係団体の政治分野アドバイザーに名を連ねるなどして、業界との関わりをもつようになる。

12年に衆議院議員に転じると、14年には平沢勝栄衆議院議員らと風営法議連を設立。事務局長をしてきた。しかも、二階俊博幹事長の派閥に属することから、同幹事長の意向のもとに議連が業界と警察庁の仲介役をしたとされる181月のパチスロ自主規制の大幅緩和に際しては、根回しに尽力したといわれる。

加えて、風営法議連は昨年34月に遊技機基準等プロジェクトチームの会合を4回開催し、型式試験の方法や出玉性能の抑制とのめり込み防止の因果関係などを警察庁の担当官に問いただした。そのうえで、「遊技機基準等に関する提言」を国家公安委員長や警察庁生活安全局長などに提出したが、ここでも秋元議員の働きを評価する声が業界内からは聞こえてくる。その穴は大きくないのだろうか

だが、あるホール関係団体の幹部は、すでに二階派とのパイプは確かなもので、それは一中堅議員の逮捕で揺らぐものではないとの業界上層部の見方を明かす。

そもそも、業界と二階幹事長の繋がりができたのは、全日遊連・日電協・回胴遊商が1712月に窮状を“直訴”してから。これは秋元議員や風営法議連の口添えではなく、独自のルートによると聞く。昨年7月の参院選における自民党公認候補・尾立源幸氏の支援も二階幹事長が直接要請してきたもので、落選の結果にもそれなりの評価があったと伝えられている。

二階幹事長が80歳と高齢なのは不安材料ではあるものの、当面の自民党とのコミュニケーションに支障はないというのである。

●大手ホールも家宅捜索 心配は依存問題と絡めた報道
それよりも、業界側が憂慮しているのは世間のパチンコに対するイメージの悪化だ。

秋元議員は逮捕前からTwitterやメディアの取材を通じて不正には関与していないことを訴えており、逮捕後も容疑を否認し続けているという。それに今回の事件は海外企業によるIR絡みの贈収賄疑惑で、パチンコ業界そのものがターゲットになっているわけではない。

しかし、これまでの秋元議員の経歴から逮捕翌日のある全国紙の朝刊には、「娯楽産業 仕切った末 パチンコ・クラブ・カジノ…交友問題視も」の見出しが躍った。

同紙は、秋元議員が小林衆議院議員(当時)の秘書を務めていた経験からパチンコの各業者の懐具合を熟知しており、小林氏が落選後はそれを引き継ぐように自分の支援者にしていったと説明。議員活動ではパチンコ業界から人脈を伸ばした娯楽産業の振興に力を入れてきたことや、高い集金力を支えてきた業種の一つがパチンコだったことを伝えている。

「パチンコを批判しているわけではないので、反論はできない。でも、読者の我々に対する心証は良くないはず。結果的に殴られっぱなしとあまり変わらない」と某県遊協の役員。ましてや、大手ホール企業が家宅捜索を受けたことから、イメージダウンは必至と嘆く。

特に心配なのは依存問題対策と絡めて取り上げられることだ。

実際、大手ホール企業が家宅捜索を受けた際、あるニュース番組では、カジノ導入で依存問題対策が重要課題となっていることに関連し、パチンコ業界でもさまざまな対策を求められている現状にコメンテーターが言及。規制をゆるめてもらいたい業者との間に不透明なところはないかとの観点からも、秋元議員の周辺捜査を進めようとしているのかもしれないと述べている。

ある団体の関係者は報道が風営法議連と業界の関係にも飛び火するおそれがあると警戒し、「うがった報じ方にはそのつど対応を考えていくしかない」と話す。

●政府との潤滑剤の意味でも自民党とのパイプは不可欠
また、業界が政界との結びつきを強めつつある流れについては、所管官庁である警察庁への配慮もあって、いまだ引き気味の業界人も少なくない。そうした背景もあり、今回の事件で対政界戦略にブレーキがかかるのではないかとの見方もあるが、推進派は異口同音に「舵取りにブレはない」と明言する。

それは業界が依然として厳しい状況に置かれているからだ。店舗数の減少は止まらず、旧規則の主力機が検定・認定切れによりホールから外れ始めているにもかかわらず、6号機は低空飛行を続けたままなど、目の前の空には暗雲が漂っている。

それに業界は、政府のギャンブル等依存症対策推進基本計画に基づき、警察庁からさらなる依存問題対策を迫られている。パチンコ・パチスロ産業21世紀会の基本方針と具体的対策を定めた「パチンコ依存問題対策基本要綱」「パチンコ・パチスロ産業依存問題対策要綱」にしても、昨年1111日の21世紀会で承認したにもかかわらず、正式決定が年末ぎりぎりまでずれこんだ。同庁がなかなか了承しなかったということだ。

このような状況から、あるホール関係団体の幹部は「(IR疑惑事件の)推移は見守らなければならないが」としつつ、警察庁はもとより政府との潤滑剤の意味でも、政権与党との間に確固とした陳情ルートが不可欠なのだと強調する。

ただ、IR疑惑は捜査の範囲がそのほかの国会議員にも広がり、先の読めない展開になっている。自民党とのコミュニケーションに支障はないとの業界上層部の見方を先に伝えたが、頼みの二階派や風営法議連がしばらくは一歩引いて構える可能性もある。引き続いてアンテナを広げておく必要があるだろう。

秋元司衆議院議員。国際観光産業振興議員連盟(通称IR議連)のメンバーでもあった

■プロフィール
中台正明
1959年、茨城県生まれ。フリーライター。大学卒業後、PR誌制作の編集プロダクションなどを経て、1996年3月、某パチンコ業界誌制作会社に入社。2019年2月に退職し、フリーとなる。趣味は将棋。

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