【特別寄稿】パチンコ産業の歴史㉖ 2004年規制改正以降のパチンコ市場①(WEB版)/鈴木政博

1. 規則改正後のパチンコ市場
2004年規則改正以降のパチスロの動きは前回触れた。ではパチンコはどうかといえば、こちらは順調な滑り出しをみせた。2004年7月1日に改正規則が施行され、その約3ヶ月後の10月12日には新基準機第1号機が適合。SANKYO製「CRF大ヤマト2」が11月7日より、大一商会製「CRおそ松くん」が11月14日より納品を開始した。パチンコは改正規則において大幅に緩和され、逆に日工組内規で一定程度まで射幸性を抑える、という状況にあった。当初の「大当たり確率の下限は500分の1まで」「賞球は3個以上とする」などは全て日工組内規で自主的に決めていたことだ。また、当時のパチンコが大きく躍進した要因も、その緩和にあったといえる。大きくは「確率変動率の自由化」である。またそれに合わせ、MNRSという確率とラウンド数の規定に「平均ラウンド数による算出」がOKになったことも大きい。これにより、最大は16Rだが、8Rや2Rの大当たりもある、という台の開発が容易になった。その他、第一種、第二種などの「種別の撤廃」によりバラエティに富んだ機種が開発できたり、大当たり中のパンクがなくなったりと、規則改正以前と比べパチンコは劇的な変化を遂げている。

中でも新規則の序盤においてスマッシュヒットを飛ばした革命的機種といえば、2005年5月に設置開始となった京楽産業.製「CRぱちんこウルトラセブンL77」だ。確率は479分の1ながら「2R出玉なし時短」という、突然確変でもなく、通常当たりで出玉もなし、という大当たりを搭載。これにより実質初当たりのハードルを上げることで、連チャン中の出玉性能を大きく引き上げる手法が注目され、ここからさらに演出面でも発展し「バトルタイプ」というジャンルが発生、以降人気を博していく。

しかし、この実質的な射幸性が上がっていく状況に行政側はいい顔をしなかった。あまりにも高い射幸性を当然ヨシとはせず、結果としてここから日工組内規は改正につぐ改正を余儀なくされ、自粛モードへ入っていくこととなる。

CRぱちんこウルトラセブンL77

「CRぱちんこウルトラセブンL77」
(京楽産業.製)
©1967円谷プロ ©2005円谷プロ ©KYORAKU

2. 相次ぐ日工組内規の改正
規則改正翌年の2005年9月、日工組は内規を改正した。大当たり確率の下限を「500分の1まで」から「400分の1まで」と改正した。まずはここで大当たり確率の下限を変更し、射幸性に一定の上限を設けたが、しかしこれ以降も各社からこぞって「バトルタイプ」「MAXタイプ」と呼ばれる機種が発売され、当時はそれらが市場でも支持された。ニューギン製「CR花の慶次」でMAXタイプ人気に火が付き、サミー製「CR北斗の拳」でブームは決定的となった。

そして、結果において射幸性は上がっていった。大当たり確率の下限を「400分の1まで」としても、それは「2R確変」「2R時短」「2R通常」など一般に「パカパカ当たり」と呼ばれるものを全て「大当たり」としてカウントした上での400分の1である。従って、これら「出玉なし」の大当たりをどんどん組み込んでいけば、実質の大当たり確率はいくらでも下がっていく。400分の1という下限確率は、有名無実化していた。当然、「2R」のパカパカ当たりが実質は大当たりでないとすれば、MAXタイプは実質確率が400分の1の下限を超えた機械とならないか、といった議論が出始める。そこで「何が大当たりなのか」「どれを大当たりと解釈して400分の1の下限を実現するか」について決めよう、という動きが始まり、再度2009年4月1日以降の保通協への型式試験持ち込み機種につき、日工組内規が改正された。

日工組内規「大当り基準」の追加補足について

(1) 大入賞口の開放時間は1ラウンドあたりの最低秒数を6秒以上とすること。

(2) 大入賞口の最大入賞個数は、大入賞口の数に係わらず1の値とすること。

(3) 上記(1)(2)以外の大入賞口の開放については、大当り後確率変動状態とならないものについては大当り下限確率の計算から除外すること。

(4)2009年4月1日以降に販売する遊技機については上記内容に準ずるものとすること。

つまり、確変でない「通常大当たり」については、アタッカーが6秒以上オープンしないと下限確率の大当たりに含めない、となったのだ。この6秒については、小当たりの規定が「6秒を超えない」という規定から通常は5.8秒程度で搭載されていたため、その小当たりと区別する意味合いで出てきたものと思われる。

さらに、この「バトルタイプ」以外でも革命的な機種が発売される。2008年11月より設置が開始された、サンセイR&D製「CR牙狼」である。この機種の方式を取れば、MAXタイプについてどれだけ規制しても、いくらでも過激なスペックが開発可能となってしまう。この時の日工組の対応は早く、2009年4月1日より、上記のものと同日施行で「一種二種混合タイプ内規」を改正している。

CR牙狼XX

「CR牙狼」(サンセイR&D製)
©2005 雨宮慶太/Project GARO ©2006 雨宮慶太/東北新社・バンダイビジュアル

追加された日工組内規からの抜粋

1.対象となる遊技機
条件装置の作動に係る特定の領域を有し、かつ、変動時間短縮機能を有した遊技機

2.制限内容
時短中の時短の継続方法については下記の通りとする。
(1):特別図柄の割合で決定される場合
当りの種別に関わらず(大当り、小当り)それぞれ66%以下とすること。

(2):(1)以外の場合
時短中の獲得遊技球数が4800個以下となるセット機とすること。

3.セット機とする場合は下記条件を満たすこと。
時短中セット回数≦4800個÷時短中の獲得遊技球数の平均値

初代「牙狼」は継続率82%、右打ち中の期待出玉は7,000個を超えていた。牙狼タイプについては、時短中の平均獲得玉数を4,800個以下にし、突入率を66%以下とするという内容だ。

そしてさらに内規改正は続く。2009年末に導入された高尾製「CRベノムの逆襲」につき、その導入を前に日工組内規の追加・変更の動きは始まっていた。そして2010年2月1日納品分より適用されたのが、いわゆる「ベノム内規」である。内容は以下の通りだ。

日工組内規の改正・追加部分(抜粋)

1. 特別電動役物よりも普通電動役物で出玉を増やす遊技機
(1)出玉性能
特別電動役物に係る入賞口の内、最小となる「N×R×S」よりも、普通電動役物に係る入賞口の「最大入賞数×賞球数」が大きい遊技機において、下記の条件を満たすこと。
最初の大当り開始からリミッタ機能(注2)が作動する大当り終了までの間に、特別電動役物および普通電動役物による獲得遊技球数の期待値は1600個以下とする。
また、リミッタ機能が作動した大当り終了後、大当りを引戻す確率を2/3以下とし、賞球数は10個以下とする。
なお、大当り回数のリミッタ機能を有しない遊技機の場合には、大当り開始から通常状態に戻るまでの総獲得遊技球数の期待値を4800個とし、賞球数は10個以下とする。
ただし、獲得遊技球数、大当りの引戻し確率の計算には、記憶による引戻しも含める。
(注2)確率変動により継続される大当り回数を制限する機能

(2)実施日
平成22年2月1日の納品より適用する。

本来、電チューで玉が増えるのは技術上の解釈基準により禁止されている。ただしこの手の台は、通常時は電チューの開放を決める「普通図柄」を回し、当たれば電チューが開放、そして電チューに入ると初めて「特別図柄」が回転し、そして大当たり確率はほぼ「1分の1」という仕組みになっている。そして確率が「1分の1」であれば、大当たりアタッカーでの払い出しは当時の規則上、最大で12個までしか実現できない。

これを「特別図柄の大当たり中であれば、玉が増えてもよい」という点に注目し、大当たり中に限って「電チューで玉を増やす」という仕組みで成り立っているのが、ベノム系の台の仕様だ。ちなみにこの内規改正では、出玉を単発で1,600個、引き戻しを3分の2、総出玉期待値を4,800個までとし、さらに電チューの賞球数を10個以下とした。

しかし「牙狼」「ベノム」と続いた新ジャンルへの挑戦が日工組内規により規制されるという動きは、これにとどまらなかった。この後、豊丸産業製「CR天上のランプマスター」とアビリット製「CR E-ZONE」の2機種が発売されると、また新たな動きが始まるのだ。

CRベノムの逆襲

「CRベノムの逆襲」(高尾製)
Spider-Man,the Character:TM&©2009 Marvel Characters,Inc. Spider-Man 3,the Movie:©2007 Columbia Pictures Industries,Inc. All rights reserved.

(以下、次号)

■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。

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