【特別寄稿】パチンコ産業の歴史㉔ 規則改正の流れを振り返る(WEB版)/鈴木政博

1. 規則改正までの取り組みと流れ
前号にて「規則改正」とはどのような流れを踏んで行われるのか、次回はこの点を掘り下げてみたいと書いた。今回はここに焦点を置いて歴史を紐解いてみたい。

ここでいう規則とは「遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則」という国家公安委員会規則第四号の改正を指す。通常は、合わせて「技術上の規格解釈基準について(通知)」や「技術上の規格 質疑応答集」なども改正される。近年でいえば2018年2月1日に、ぱちんこ遊技機において払い出しで一度の大当たりにつき最大2,400個(16ラウンド)から1,500個(10ラウンド)へ、パチスロもビッグボーナス1回での最大払い出し枚数を300枚までに収めるため「285枚を超える払い出しで終了」と改正されたのが記憶に新しい。

では、規則改正が実際に公布されるまでには、どのような流れとなるのか。ここでは2004年の規則改正を例に振り返る。

2004年の規則改正に向けて実際に動き始めた時期は意外に古く、実は20世紀末まで遡る。1999年11月より、当時警察庁生活環境課長だった佐藤正夫氏が遊技機規則改正に向けた基盤づくりに尽力し、準備を開始。約1年後の2001年1月16日になって、業界4団体(全日遊連・日遊協・日工組・日電協)に対して国家公安委員会規則「遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則」の改正案の試案を伝達した。当初は規則改正の草案が発表されるとみられていたが、警察庁はまず試案を伝達、業界からの意見を聞きながら慎重に草案作成を進めていく方針をとった。

伝達2日後の1月18日付には佐藤正夫氏は宮城県警本部長へ転任、当時、神奈川県警本部長だった吉田英法氏が警察庁生活環境課長に新たに就任し、遊技機規則改正作業を引き継ぎ手掛けることになる。

この時の試案内容の概要は「ぱちんこ遊技機の区分(イロハ)の撤廃」「保通協型式試験方法の再検討」「回胴式遊技機の獲得枚数規制」など。改めて当時の改正案試案や、当時私が作成した改正案解説などの資料を確認してみると、この試案にはすでに改正規則として盛り込まれた内容の多くがこの時点で含まれていたことに驚かされる。以後、爆裂機として問題視されることとなるAT機やST機が市場に受け入れられる以前のタイミングにもかかわらず、AT機やST機へ向けた規制内容が若干盛り込まれていたり、「パロット」など遊技球を使用するパチスロ機の規定整備が謳われていたり、規則改正後大きな問題となる「釘の角度の誤差」について検討されていたりなど、規則改正を行うに対し、行政が決して一朝一夕で行っているものではないことが容易に想像できる具体的な内容だ。また2004年の規則改正では結局見送られたものの「パチンコの保留数」や「パチスロの貯留枚数」などの制限撤廃が検討されていた点など、興味深いポイントも数多い。

2. 爆裂機検定取り消しの影響と規則改正公布まで
当時試案が伝達された時点では、半年程度で改正規則の案が完成し、2001年度中にも公布、2002年には施行されるとみられていた。ただ当時は施行にあたって、一部地域で蔓延していたパチスロ不正機が問題視されており、その自浄能力も問われていた。そんな中、改正規則試案の伝達と時を同じくして発表された遊技機が、サミー製「獣王」だった。

規則改正の試案が業界4団体に伝達される6日前。2001年1月10日、東京にてサミー製「獣王」の内覧会が開催された。この機種が市場から圧倒的な支持を受けて以降、ここからAT機や、合わせてストック機を中心とする爆裂機時代の幕開けとなるのはご承知のとおりだ。

この爆裂機問題で、規則改正への道筋は大きくそれた。2002年は、パチスロにおいて日電協を中心に自粛を余儀なくされることとなり、規則改正においての流れも一時中断しつつ、その内容についても見直すこととなった。

そして翌2003年、10月1日に鳥取県公安委員会で爆裂機3機種の検定取り消し公示。その直後10月8日、警察庁より業界各団体に改正についての内示があり、10日には規則改正案が業界団体・マスコミへ発表された。発表された規則改正案は、当然のことながらパチスロにおいては非常に厳しい内容となっており、その後5号機初期においてパチスロは非常に苦しい局面へと推移していったのはご存じだろう。

2004年 規則改正案発表までの流れと爆裂機検定取り消しの影響
1999年
11月
・佐藤正夫警察庁生活環境課長が遊技機規則改正に向けた基盤づくりを開始

2001年
1月16日
・業界4団体(全日遊連・日遊協・日工組・日電協)に対し国家公安委員会規則
・「遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則」の改正案の試案を伝達

2002年
6月17日
・日電協技術委員会で、射幸性の高い機械の販売等について自粛の方向を検討
7月2日
・日電協が「日電協自粛案」「自主規制仕様の実施要綱」を発表

2003年
6月13日
・「回胴式遊技機に係る試験申請について(通知)」通達
8月1日
・保通協型式試験にて提出資料変更、実質的にAT禁止へ
10月1日
・鳥取県公安委員会で爆裂機3機種の検定取り消し公示
10月8日
・警察庁より、業界各団体に改正についての内示
10月10日
・警察庁より規則改正案を業界団体・マスコミへ発表

3. 規則改正案の発表から公布・施行まで
規則改正が行われる時には「規則改正案発表」→「パブリックコメント実施」→「意見等の処理結果公表」→「改正規則公表」→「改正規則公布」という流れになるのが一般的だ。

そして新規則が公布されると、その確定した規則に沿って「技術上の規格解釈基準について」や「技術上の規格 質疑応答集」などの改定作業が始まり、その後に「日工組内規」や「日電協内規」の改正作業を経て、ついに「新規則施行」となる。

2004年 規則改正公布までの主な流れ
2003年
11月14日
・警察庁がパブリックコメント意見募集を開始
12月12日
・警察庁がパブリックコメント意見募集を終了
12月25日
・警察庁、パブリックコメント「意見等の処理結果」公表

2004年
1月9日
・警察庁、改正「国家公安委員会規則」「内閣府令」公表
1月30日
・改正「国家公安委員会規則」および「内閣府令」公布
4月2日
・「技術上の規格解釈基準(案)」「技術上の規格質疑応答集(案)」「認定申請書、検定申請書、遊技機試験申請及び型式試験申請者の添付書類の記載要領(案)」を警察庁が通達
4月12日
・日工組・日電協にて緊急技術委員会開催
4月16日
・「技術上の規格解釈基準(案)」「技術上の規格質疑応答集(案)」「認定申請書、検定申請書、遊技機試験申請及び型式試験申請者の添付書類の記載要領(案)」の意見募集終了
5月27日
・「技術上の規格解釈基準」「技術上の規格質疑応答集」「認定申請書、検定申請書、遊技機試験申請及び型式試験申請者の添付書類の記載要領」の確定版が通達
6月11日
・日工組内規の制定について決議される
6月30日
・保通協にて現行規則による型式試験の受理が終了
7月1日
・改正「国家公安委員会規則」および「内閣府令」施行
・新規則基準にて保通協が試験申請受付開始
8月中旬
・新規則基準にて保通協に試験申請が受理されだす
10月12日
・新基準遊技機の第1号が保通協型式試験を適合
10月16日
・新基準遊技機「CRおそ松くん」記者発表
10月18日
・新基準遊技機「CRフィーバー大ヤマト2」展示会開催
11月7日
・新基準遊技機「CRフィーバー大ヤマト2」がホールへ納品開始
11月14日
・新基準遊技機「CRおそ松くん」がホールへ納品開始

2004年改正では、2001年1月16日に改正案試案を業界団体に通達したものの、その直後からAT機が発売され爆裂機問題が浮上したため、実際に改正案が業界団体へ内示されるまでに2年10ヶ月を要した。こちらはレアケースであり、準備開始から施行まで丸5年の月日が必要だった。ただしパブリックコメント実施は2003年11月14日、そして新規則施行が2004年7月1日と、この間は約7ヶ月半となっている。

ちなみに2018年改正では、業界団体へ向けた改正案の概要説明は2017年6月19日、パブリックコメント実施が同7月11日、新規則施行が翌2018年2月1日。順調であれば、おおむね改正案の内示から改正規則施行までは7ヶ月半ほどで進むことが分かる。

次に規則改正はいつごろになるか。10年スパンといわれる規則改正だが、少なくともその一年前には業界団体と行政との折衝が本格化する。今後の業界の動きに注視していきたい。

(以下、次号)

■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。

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