豪華絢爛な大型IR(統合型リゾート)を中心として世界一の売上規模を誇るカジノが目立つマカオだが、実は競馬、サッカー及びバスケットボールを対象としたスポーツくじ、ロトといった各種ギャンブルも存在し、それぞれ政府とコンセッション(経営権契約)を結ぶ民間事業者によって運営されている。
このうち、競馬については澳門賽馬股份有限公司のマカオジョッキークラブが唯一のコンセッション事業者だが、今年(2024年)1月15日付のマカオ特別行政区政府公報(官報に相当)にコンセッションを解除する行政令が掲載され、政府が同日に特別会見を開いて詳細を明らかにした。
マカオ政府の発表によれば、コンセッションの解除日は今年4月1日で、同日を以ってマカオ競馬は終了するという。コンセッション解除に至る経緯については、昨年(2023年)事業者側から政府に対し、経営難かつ競馬が現在の社会発展のニーズに応えられる状況にないことを理由にコンセッション解除の申請が出されたためとのこと。政府として、(1989年に現在のかたちとなった)マカオ競馬は約40年の歴史を有するものの、近年は地元住民やインバウンド旅客にとって競馬の魅力が薄れていることを考慮し、政府内で慎重に検討を行った結果、事業者からの申請を受理し、双方合意の上で契約解除を決めたと説明。契約解除合意書には、事業者が影響を受ける従業員へ法律に則った適切な処遇をすること、2025年3月31日までに馬を妥当なかたちで海外へ移送すること、タイパ島にある競馬場用地及び関連施設をマカオ政府に無償で引き渡すことなどが盛り込まれているとした。
会見で公表された直近の事業者の従業員数はマカオローカルが254人、海外労働者が316人で、所属する馬の数は引退、練習馬も含めて289頭。また、昨年の中継分を除く馬券販売額は約1.4億パタカ(日本円換算:約26億円)程度に低迷、入場者数は約2.9万人にとどまり、コロナ禍にあった前年の約3.8万人すら下回る状況だったという。
現行の競馬運営コンセッションは2018年2月に延長されたもので、期限は2042年8月31日までだった。この際、ノンゲーミング要素の強化や老朽化した施設の更新などを進め、市民及び観光客のレジャーの多様化を通じて経済発展に貢献することなどが条件とされていた。
今後のマカオにおける競馬の継続について、マカオ政府行政法務庁の張永春長官は会見の中で、競馬は衰退が進んでおり、一部の国では禁止されているとした上、政府として慎重に検討した結果、今回のコンセッション解除後に新たな競馬のコンセッション入札を実施することはないと明言。よって、マカオにおける競馬そのものの廃止が決まったことになる。
マカオのギャンブル市場ではカジノが圧倒的なシェアを占める。カジノ以外のギャンブルについては、スポーツくじを除いて苦戦が続いている状況。昨年通期のマカオのカジノ売上(粗収益、Gross Gaming Revenue=GGR)は約1831億パタカ(約3兆4100億円)で、コロナ前2019年の6割強まで回復した。マカオのすぐ隣にある香港では、依然として競馬人気は高く、コロナ禍を経て現在に至るまで、大きく状況は変わっていない。参考までに、香港競馬の昨シーズン(2022-2023年)の馬券販売額は前年とほぼ同額の約1404億香港ドル(約2兆7000億円)で、マカオ競馬とは桁違いの規模だ。筆者は香港在住の頃、しばしば仕事帰りにハッピーバレー競馬場を訪れたものだ。ただし、マカオへ居を移して以降、競馬場近くに住んだこともあるが、競馬観戦の機会はほとんどなく、カジノへ足が向くようになった。香港とマカオの日常生活における競馬との距離感を表しているかもしれない。
このほか、マカオでは2018年7月に80年以上の歴史があったドッグレースがコンセッションの満了を以て終了、廃止となっている。ドッグレースはかつてマカオのギャンブルの花形として栄えたが、ファンの高齢化、売上の減少、施設の老朽化が進み、さらには動物愛護団体から虐待だとする指摘を受けるなど存続が厳しい状況が続く中、運営会社は海外で開催されるドッグレースを中継する方式へ変更する計画を作成し、コンセッションの延長を申請したものの、政府は税収、ドッグレース場周辺エリアへの経済効果、海外からの旅客の誘致につながらないことなどを理由に否決の判断を下したとされる。
なお、マカオジョッキークラブのウェブサイトを確認すると、最後のレース開催日は(2024年)3月30日のようだ。本号の発売日ギリギリのタイミングにあたるが、場内の雰囲気を感じるなら、この日までがラストチャンスとなる。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/
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