「Go To トラベル」見切り発車の裏に…旅行業界の阿鼻叫喚

「重症者が増えている。特に(重症化リスクの高い)高齢の方や、既往症のある方は外出をお控えいただくことが重要と考えている」

 東京都の小池知事がこう呼びかける中で始まった政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」キャンペーン。東京都発着が除外されたとはいえ、全国の自治体首長などからは「このタイミングで強行して大丈夫なのか」「新型コロナウイルスの新規感染者を増やすだけではないのか」といった疑問の声が相次ぐ。にもかかわらず、政府はなぜ、「Go To トラベル」を前倒ししてまで実施に踏み切ったのか。そこには阿鼻叫喚の旅行業界の台所事情があったのは間違いない。

 観光庁が発表した主要旅行業者47社の旅行取扱状況(速報)によると、今年5月の総取扱額は、前年同月比97.6%減の95億7340万円。国内旅行が同96.6%減の81億7560万円、海外旅行が同99%減の13億5850万円、外国人旅行が同99.8%減の3920万円で、いずれも壊滅的な状況だ。大手旅行会社の取扱額では、JTB(10社)が同96.4%減、KNT-CTホールディングス(13社)が同98.7%減、日本旅行が同98.2%減となり、海外旅行の取扱額がゼロ円の会社も少なくなかった。

 旅行業は、取扱窓口の旅行会社だけではなく、航空機やバス会社、旅館・ホテルに加え、観光地では飲食店、土産品店、タクシー……など、裾野が幅広い。アベノミクスで喧伝されたトリクルダウンではないが、大本の旅行会社の取扱額が前年比99%減という惨憺たる状況であれば、その先にカネがしたたり落ちるはずもない。つまり、このままだと旅行業者は業界自体が消えかねない瀬戸際の状況だったわけだ。

 旅行業界に詳しいジャーナリストの渡辺輝乃氏がこう言う。

「旅行需要が年間を通じて最も高まるのが7~8月で、政府としても何とかしてこの時期に『Go To トラベル』を実施したいと考えたのでしょう。『無策』だろうと『見切り発車』と批判されようと、このタイミングを逃すと本当に旅行業界が深刻な状況に追い込まれてしまう。思い切って実施に踏み切った理由はそこにあると思います」

■東京除外と60代以上の自粛要請でますます冷え込む

 だが、旅行業界の起死回生を狙って「Go To」を始めたものの、東京発着はキャンペーンの対象外に。さらに菅官房長官は22日の会見で、「Go To」で団体旅行の自粛を求める「若者」と「高齢者」の目安について、「若者は20代以下を、高齢者は60代以上を念頭に置いている」と発言するなど、期待された旅行ムードは一気にしぼんでしまった。

「菅長官は自粛を求める年齢について、『60代以上』と言っていましたが、旅行需要で最もアクティブに動いている年齢が60代以上です。つまり、時間があり、お金に余裕があり、平日に動ける人たち。その最も大きい市場が動かなくなったら、一体誰が旅行するのでしょうか。東京除外と60代以上の自粛要請で、ますます『Go To』は冷え込んだとみていいでしょう」(渡辺さん=前出)

 旅行業界にとって、7~8月の団体旅行と並んで収益の大きな柱と期待を寄せているのが修学旅行だ。5~6月の修学旅行は中止となったが、9月以降については実施か、中止かを決めかねている学校も少なくない。保護者からは「若い人なら、新型コロナに感染しても重症化しにくいと考え、強行しようとしているのではないか」といった批判や憶測の声も出ているが、いずれにしても修学旅行さえも全滅となれば旅行業界もいよいよ崖っぷちに追い込まれる。

 テレビのワイドショー番組では、「『Go To』は来年3月まで実施している。慌てて出掛けなくても十分、間に合う」と発言しているコメンテーターもいる。これに対し、渡辺さんは「そう簡単ではない」と否定的な見方を示しつつ、こう続ける。

「旅行代金は前払いが原則です。いざ、お金を振り込んだら会社が倒産してしまった、という最悪のケースが出てくるかもしれません。旅行会社は辛うじて持ちこたえているものの、ツアーの日程に組み込まれていた観光施設、飲食店が突然、潰れるという事態だって起きる可能性があるのです」

 旅行業界はこの先、社員の大規模なリストラや再編、淘汰の冬の時代に入るかもしれない。

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