【コラム】過渡期の終了まで1年余りに…どうなるマカオの衛星カジノ?(WEB版)/勝部悠人

マカオのカジノの中には、「衛星(サテライト)カジノ」というカテゴリーが存在する。マカオ政府とカジノ経営コンセッションを締結する6つの事業者が自社施設における直営ではなく、第三者と組んで自社所有ではないシティホテルや商業ビル内の数フロアに展開する中小規模のカジノで、委託のような形態で運営がなされているものを指す。

マカオでは、昨年(2023年)の年頭から10年間の新カジノ経営コンセッションがスタートし、これに合わせて改正カジノ法も施行され、当初マカオ政府は衛星カジノを一刀両断にする措置(3年間の過渡期を設けた上でカジノ施設はコンセッション事業者直営物件内の設置に限ることとする)を盛り込む意向を示したが、経済状況及び雇用や周辺ビジネスへの影響などを踏まえ、結果的には運営場所の所有権切り替えをせずに済む妥協案でまとまり、物理的に存続が可能となった経緯がある。ただし、コンセッション事業者と委託事業者の間のレベニューシェアは3年間の過渡期をもって終了となり、以降はコンセッション事業者が固定額の管理費を支払う方式で運営することとされた。過渡期は改正カジノ法の施行と同時にカウントダウンが始まっており、残すところ1年余りだ。

改正カジノ法の施行直前、衛星カジノは18施設あったが、法改正をきっかけに7施設が撤退した。目下、従前の方式で11施設が営業を続けている。11施設の内訳はSJM系が9施設(ランドマーク、グランドビュー、カムペックパラダイス、カーサレアル、フォーチュナ、グランドエンペラー、ポンテ16、ルアーク、レジェンドパレス)、ギャラクシー系が1施設(ワルド)、メルコ系が1施設(グランドドラゴン)となる。

マカオの現地紙「市民日報」の報道によれば、現行のレベニューシェアの場合、衛星カジノの運営側はカジノ粗収益(GGR)の55%を得ているとのこと。また、衛星カジノの粗利率は8~15%で、経営規模は大きくないとも指摘。過渡期が終了した後は「管理会社」として固定の管理費を受け取ることになるが、収入とキャッシュフローの減により、再び撤退の波が出現することも予想されるとしている。

衛星カジノを最も多く抱えるSJMの発出資料を参照すると、毎年の衛星カジノによるGGRは120億パタカ(約2295億円)程度、納税額は50億パタカ(約956億円)程度となっており、同社にとって決して小さい数字とはいえない。衛星カジノの撤退によるネガティブな影響については、直接・間接的におよそ1万人程度の失業をはじめ、衛星カジノ入居物件及び周辺エリアの不動産価値下落などが挙げられる。

そもそも、マカオ政府が衛星カジノを一刀両断にする措置を打ち出したのは、カジノ施設の運営を政府による直接管理で透明化したい意向があったことと関連したものだ。かつて、いわゆるジャンケットルームを舞台に様々な問題が出現したVIPルームについては、新コンセッションのスタートと同時にコンセッション事業者の直営のみに改められた。衛星カジノも現状はワンクッション挟む状況だ。しかしながら、実際にはジャンケットルームと衛星カジノでは客層もビジネスモデルも全く異なる。衛星カジノはミニマムベットが低めに設定され、ライト層が少額でカジノプレイを楽しむ場所として定着している。ジャンケットルームであったような問題とは無縁の世界だ。

現地有力紙やカジノ専門メディアは、アフターコロナでインバウンド旅客数の回復は進むものの、依然コロナ前水準に復帰していないマカオの経済状況を鑑み、特に雇用と中小企業支援を理由として衛星カジノの現状維持を求める論調を張っている。マカオでは、首長にあたる行政長官が交代することが決まっており、12月20日に新行政長官が就任する予定だ。カジノ業界に関する政策につき、従来から変化も予想されることから、法改正時に妥協案でまとまったように、過渡期を前に何らかの方針転換や過渡期の延長もあるかもしれない。マカオを訪れるカジノプレイヤーの立場としても、統合型リゾート(IR)併設カジノのミニマムベット設定が高止まりしている状況の中、より少額で遊べる選択肢として衛星カジノが残るのがベターだろう。巨大な規模で豪華絢爛なIRばかりではなく、雑多でローカル風情の残る衛星カジノもまた、マカオの多様な魅力のひとつでもある。とはいえ、将来的に存続が危ぶまれることは確かであり、もし興味のある方は、過渡期の間に訪問するようにしていただきたい。

 

ニューオリエントランドマークホテル

衛星カジノ施設を擁するニューオリエントランドマークホテルの外観=マカオ半島新口岸地区にて筆者撮影

■プロフィール
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/

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