パチンコ屋は何故コロナ危機中でも繁盛するの???

狙い撃ちされるパチンコ店背後で絡み合う「3つの問題」

 コロナ禍が広まるなか、パチンコ店の営業が政治問題になっています。西村経済再生相は休業要請に応じないパチンコ店について、店名の公表を伴う休業指示を検討していることを明らかにしました。大阪府の吉村洋文知事も、休業要請に応じない商業施設に対して施設名を公表していくと発言しています。

 遡ること3月22日、国や地方自治体がさいたま市で開催されるK-1イベントを名指しで止めようとして止められなかったことがありました

が、このパチンコの問題はそれ以上に根が深いです。業界のことを知っていればいるほど、「やめられないだろうし、無理にやめる意味はないだろうな」と思う構造があるからです。本稿では、その理由を整理してみたいと思います。

 このパチンコ店のケースには、3つの問題が絡み合っています。中小のパチンコ店が営業を止めたくても止められないという業界側の問題、パチンコ店が空いている限り人が殺到するという利用者側の問題、そしてパチンコ店がスケープゴートにされているという政治側の問題です。

中小店でもバカにならないパチンコ台や空調設備の投資

 順を追って説明しましょう。1つ目は業界側の問題です。そもそもパチンコ店の経営は、特に中小企業であるほど、資金繰りが自転車操業にならざるを得ない構造になっています。理由は、高額なパチンコ台を常に入れ替えていかなければいけないからです。

 パチンコ店をまともに経営するためには、1台40万円~50万円もするパチンコ台を年間何百台も設置しなくてはならない、という業界事情があります。小さなお店でも、1億円規模の設備投資が必要です。

 パチンコ台以外の投資も大きくて、過去には喫煙者が多かった経緯から、空調設備や天井の高さなどを考慮する必要があり、一般の店舗以上に建設費や内装費がかかります。

 こういう状況では、休業すると収入が途絶え、地代や借入金の金利が出ていく一方になります。よくコロナ自粛で「3カ月しかもたない」という経営者の声を聞きますが、中小のパチンコ店の経営事情はそれよりも苦しく、運転資金が2カ月も持たない店が多いのです。

 パチンコ店はいろいろと特殊な扱い方をされていて、中小企業庁が全国的に経営環境が悪化した業種に発動する「セーフティネット5号保証」の対象業種に含まれていません。休業要請に従えば自治体から協力金が支給されるケースもありますが、設備投資が大きい産業なので、その程度ではどうにもなりません。

 休業要請の協力金は、たとえば奈良県の中小企業で20万円、秋田県で30万円、浜松市で50万円といったレベルですが、要するに休業期間中の従業員の給与補填分くらいしかもらえないのです。いくら国が強く要請しても、「それでは営業をやめられない」という中小パチンコ店が、最後まで頑張って開店しているというのが実態です。

コロナ危機でもパチンコに行かざるを得ない人々とは

 次に、利用者側の問題があります。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言で、東京都は4月11日から、千葉県は4月14日からパチンコ店に休業を要請し、大手を中心に多くの店舗がそれに従いました。その結果、茨城県内のパチンコ店を訪れる客が増加しています。

 報道によると、関西圏では大阪府や京都府から奈良県へ越境する利用者が増加しており、福岡県に隣接する佐賀県唐津市のパチンコ店の駐車場でも、県外ナンバーの車が目立っているようです。

「なぜ人々はコロナ危機の中でもパチンコ店に殺到するのか」と疑問に思われるかもしれませんが、こんな状況にもかかわらず、車を運転してでもパチンコ店に出かけたいという人は一定数いるのです。そこにあるのがギャンブル依存症の問題です。

 現在のような非常事態の中でパチンコ店に行く人全てがギャンブル依存症であるとは、決していえません。しかし、実際にそうである人、依存症まではいかなくてもそのレベルに近い傾向を持つ人が含まれている可能性は、十分にあると思われます。

 日本人は、周囲の人の依存症に対してあまり寛容ではない国民性のように思えますが、依存症というのはれっきとした病気であって、簡単にやめることができないものです。同じ意味で、「薬物依存症」も「セックス依存症」も病気です。

 芸能人が薬物で逮捕されたり、国会議員が風俗店でやりたい放題やったりというニュースを聞くと、私たちは嫌悪感を覚えます。「ギャンブル依存症」もそうであり、本人はつらくても世間の共感は得られにくい状況にあります。

 データによれば、過去にギャンブル依存症だった人は人口の3.6%程度、現在進行形のギャンブル依存症は人口の0.8%程度だそうです。比率としては少ないように見えても、概算すると若者から老人まで約80万人の対象者がいることになるので、その人たちが越境したり、繁華街で営業している数少ないパチンコ店に殺到したりすれば、確かに目立つことになるでしょう。

「コロナだからやめなさい」といくら言っても無理

 そして問題は、こういう人たちに「コロナだからやめなさい」といくら言っても、やめられないということです。繰り返しますが、これは克服が難しい病気なのです。パチンコは公式にはギャンブルには分類されていませんが、実質的には依存症の誘発性が高いギャンブルだといわれます。パチンコが大好きな人に聞くと、「あのリーチ表示の『どきどき感』がたまらなく快感で、ついつい通ってしまう」のだそうです。

 そうした快感を求めてという要因もありますが、依存者の大半は借金苦に追い込まれています。そして負けた分を取り返すために、パチンコ店に通い続けなければならない。「通わなければならない」というのは、一般人からすれば論理が破綻しているように感じますが、本人は本気でそう思っています。そして実際に通い続けると、負ける日ばかりでなく、1000円が1時間で3万円に増える日があったりもする。だから、やめられなくなります。

 平均的な依存症患者は、年間200万円ほどパチンコにつぎ込んでしまっているそうです。パチンコやパチスロの還元率はだいたい85%といわれるので、大数の法則でいえば、1年間で30万円はすってしまうことになります。だから構造的に、大半の依存者が借金漬けになり、それを取り返すためにパチンコ店に通うという悪循環に陥ります。

 今日は当たる、今日行かなかったら他の人が当たってしまう――。そう考えて行動する人が一定割合いるからこそ、コロナ危機の中でもパチンコ店にお客が殺到するのです。

パチンコ店での感染リスクが実は意外と低い現実

 さて、3番目は政治に対して問題提起します。お叱りを受けるかもしれませんが、そもそもパチンコ店の営業を完全に止めることは、重要なコロナ対策なのでしょうか。

 堀江貴文さんがパチンコについて「どうでもいい」的な反応を示していますが、確かにこの問題は今日本が直面しているコロナ対策の中では「どうでもいい部類」に入りそうです。

 その理由として、パチンコ店はクラスターになりにくいこと、言い換えると、クラスターを撲滅するならもっと別の業種を指導したほうが効果が高いことが挙げられます。大半のパチンコ店が閉鎖されている状況で、開店しているわずかなパチンコ店に集まる依存者は人口の0.8%なので、そこを撲滅してもコロナ対策効果は非常に小さいのです。

 そもそもパチンコ店の建築基準は通常の店舗と違い、タバコ利用者が多く火災を防ぐ目的で天井が高くつくられているうえに、換気システムも1時間当たり6回~10回も店内の空気を入れ替えるように設計されています。また、多くのパチンコ店では利用者同士の間に、煙草の煙を遮る分煙ボードが設置されているので、お客同士の飛沫感染を防ぐのにも役立つことでしょう。

「いやいや、実際、コロナは飛沫よりもハンドルや押しボタン、ガラス面とかに付着したウイルスを触ることによって感染しやすいのでしょう?」というのは、正しい指摘です。ただ、その通りなのですが、パチンコ店の利用者は実は結構よく手を洗います。パチンコ玉が潤滑剤まみれになっているので、手が意外に汚れるからです。

 そう考えると、パンデミック対策として接触によるウイルス感染を防ぐのなら、指導すべきはパチンコ店以上に、電車、飲食店、コンビニでしょう。たとえば、電車のつり革は乗客が降りるたびにアルコールで消毒すべきかもしれません。

 飲食店の場合、実は飛沫が飛んだテーブルの上を触って感染するケースが多いらしいので、食事中もテーブルを触らないようお客への告知を徹底すべきです。コンビニでは、お客がいったん手にして棚に戻したおにぎりやカップ麺がリスクになりますから、回転寿司と同じように一度取ったものは棚に戻さないルールに変えるべきです。

こんにゃくゼリー事故と構造は一緒スケープゴートにされたパチンコ店

 ところが、コロナ予防に効き目のあるそうした本質的な対策は、声高に指摘すると「そこまで言うのか」という業界の反発を招いてしまいます。そこで、スケープゴート(責任を身代わりさせられる存在)が選ばれます。

 以前、食べ物の誤飲事故が社会問題になったことがありました。本当は誤飲事故の死者が多いのはたばこと餅ですが、消費者庁はそこをスルーして、こんにゃくゼリーだけをやり玉にあげました。それと同じことが、現在のパチンコ店にも起きているようです。

 前述のように、ギャンブル依存症者を増やしやすいというイメージがあるパチンコ店ならば、政治的にはいくら非難しても、国民の共感を得られやすいからです。実際にこの件で、大臣も知事も炎上することはないでしょう。むしろ、コロナ対策に力を入れているという印象により、支持率は上がります。

 こうして、ゴールデンウィーク前にパチンコ店への休業指示が声高に叫ばれ、それでも一部の店は営業を続け、そこに利用者が殺到するという、「なんだか残念な状況」が続いていくのです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

https://www.msn.com/ja-jp/money/business/%E3%81%AA%E3%81%9C%E4%BA%BA%E3%80%85%E3%81%AF%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E5%8D%B1%E6%A9%9F%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%A7%E3%82%82%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%B3%E3%82%B3%E5%BA%97%E3%81%AB%E6%AE%BA%E5%88%B0%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B/ar-BB136JBC?ocid=spartanntp

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