目下、アフターコロナ2年目も後半を迎え、マカオ社会・経済はほぼ正常化したといって良い状況にある。最新統計によれば、マカオの今年(2024年)1~7月累計のインバウンド旅客数はコロナ前2019年同時期と比較した回復率は82.9%。同じ期間のカジノ売上の回復率についても76.1%に達したとのこと。マカオの統合型リゾート(IR)企業によるイベント開催も増え、現地に身を置く筆者としても、街全体に賑やかさが戻ってきたことを実感している。
今夏、マカオのツーリズム市場で日本IP(知的財産)を活用したイベントが目立った。IR絡みでは、メルコリゾーツが傘下のIRスタジオシティでサンリオと組んだ「サンリオキャラクターズ スタジオシティカーニバル」を大々的に開催。施設内各所にハローキティほか人気キャラクターのインスタレーションや写真撮影スポットが設置され、サンリオギフトゲートポップアップストアでの物販や飲食店でのコラボメニュー展開も行われた。また、MGMは犬を中心にしたシンプルでポップな作品で注目を集める日本のイラストレーターmatsuiさんの海外初となる個展「THE DOG」を同社がマカオ政府と共同で活性化を担う媽閣エリアのギャラリー「ネイビーヤード」に誘致した。IR以外では、複合リゾート施設のリスボエタとショッピングモールのNovaモールがそれぞれ異なるテーマで「ちびまる子ちゃん」とのコラボレーションイベントを開催。このほか、サンズ系のヴェネチアンマカオには「チームラボ」の施設が常設されており、コンテンツのアップデートもなされている。
近年、マカオ政府は経済のダイバーシティ化を図る目標を掲げ、中華圏以外からの旅客数の増、また旅客層のマスシフトを志向する中、カジノ・IRを含むツーリズム業界もこれに沿ったプロモーションを展開するようになった。これが日本IPにとって追い風となり、今夏の活用例の増につながったとみられる。上述の日本IPをみると、いずれも国籍、年齢、性別を問わず幅広い層にアプローチできるコンテンツであり、キャッチーでSNS映えするものだ。IRで長期開催されているものに限っても、ロンドナーマカオの「ハリーポッターエキジビション」やウィンパレスの「イルミナリウム」、グランドリスボアパレスの「ムーミン展」など、もちろん欧米IPの採用例も多いが、マカオのインバウンド市場はアジアが中心となっており、より文化的に近い日本のコンテンツに親和性があるともいえる。加えて、日本の場合はIPの選択肢が豊富という点で、韓国や中国より有利といえる。最近は中国IPがVRなど最先端技術を用いて攻勢を強めており、個人的に大いに注目している。
マカオのカジノシーンでも、日本IPの活用例は存在する。マカオの地場のゲーミングマシンメーカーとして知られるLTゲームは、バンダイナムコの著名なIP「鉄拳」とコラボレーションしたビデオスロット機をリリースして話題となった。日本のパチンコ・スロットマシンでは、漫画やアニメ、著名人などのIPを使ったものも多いが、カジノ向けでは珍しい。ほかにも、セガサミーグループのセガサミークリエイションがマカオ開催のカジノ展示会G2Eアジアの自社ブースに「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のキャラクター人形や「UFOキャッチャー」を持ち込んでプロモーションを行ったことがある。
筆者が聞いたところでは、今夏マカオで開催された日本IP関連イベントの評判は良く、集客力もあったという。マカオのIR運営企業は資金力とイベントベニューが豊富なため、今後さまざまな日本IPの活用が期待される。日本のコンテンツホルダーにとって、マカオを新たな潜在市場のひとつとして位置づけることができそうだ。なお、マカオとインバウンド旅客の獲得でライバル関係にある香港でも、著名な観光名所である尖沙咀プロムナード一帯で日本IPを活用した大型観光イベント「100%ドラえもん&フレンズ展」が今夏開催され、巨大なドラえもんバルーンやドローンショーといったコンテンツが多くの旅客を引きつけ、日本IPの集客力があらためてクローズアップされる結果となった。香港とマカオで日本の有力IPの争奪戦が繰り広げられることも予想される。
勝部 悠人-Yujin Katsube-「マカオ新聞」編集長
1977年生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業後、日本の出版社に入社。旅行・レジャー分野を中心としたムック本の編集を担当したほか、香港・マカオ駐在を経験。2012年にマカオで独立起業し、邦字ニュースメディア「マカオ新聞」を立ち上げ。自社媒体での記事執筆のほか、日本の新聞、雑誌、テレビ及びラジオ番組への寄稿、出演、セミナー登壇などを通じてカジノ業界を含む現地最新トピックスを発信している。https://www.macaushimbun.com/
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